このページの要点
- 提供データ、学習用データセット、学習済みモデル、再利用モデルを別の言葉として定義し、渡す権限の保証と明細を別表にする。
- 個人情報を含むデータは、利用目的との整合、委託の範囲、安全管理、漏えい時の連絡、外国への提供を整理する(個人情報保護法17条・18条・23条・25条・26条・27条・28条)。
- データの不備による遅延や不適合は、請負なら注文者の供した材料の整理がある(民法636条)。精度は完成の基準にせず、機能と受入テストを基準にする。
- 再利用モデルの可否、納入の形態ごとの利用範囲、納入後の保守・再学習の費用、終了時の返還・消去と証明を、契約で明記する。
結論:AI開発の契約は「データの約束」と「納入後の約束」の二本柱で組み立てる
手元のデータを使ってAIを作ってもらう、あるいはAIを使ったツールを開発して納める。こうした開発の契約は、通常のソフトウェア開発の契約に、二つの要素が加わります。一つは、依頼者が渡すデータです。データの中身、渡す権限、品質、個人情報の有無、使い道の範囲を約束しておかないと、完成が遅れたとき、期待した精度が出ないとき、データが別の目的に使われたときに、責任の所在が決まりません。もう一つは、納めたあとのAIです。AIは納めた時点で完成ではなく、運用し、データを追加し、再び学習させることで動き続けます。納入の形態(Webサービスとして提供するのか、モデルやコードを渡すのか)と、納入後の運用・再学習・終了をどう決めるかで、依頼者の使い勝手も受託者の負担も大きく変わります。
このページは、条文と一般的な契約実務にもとづく整理で、特定の契約や開発対象への当てはめではありません。たとえば「過去の実績データから将来の件数を予測するツールを作る」ような一般的な開発を想定しています。実際の取引では、データの種類、契約の型(請負か準委任か)、納入の形態によって結論が変わります。導入支援の基本契約の組み立てはAI導入研修・導入支援・保守サポートの基本契約と個別契約で、納品物の権利の考え方はプロンプト・設定・テンプレートの権利で扱っています。
結論を先に並べます。
- 用語を分ける。提供データ、学習用データセット、学習用プログラム、学習済みパラメータ、学習済みモデル、再利用モデルは、別のものとして定義し、それぞれの権利と利用範囲を決める。
- 提供データの明細と、渡す権限の保証を書く。期間、項目、形式を明細にし、委託者がそのデータを渡す正当な権限を持つことを保証させる。
- 個人情報を含むデータは、別の整理をする。利用目的との整合、委託の範囲、安全管理、外国への提供、漏えい時の連絡を決める(個人情報保護法17条・18条・23条・25条・26条・27条・28条)。
- データの不備による遅延や不適合は、責任の分担を書く。請負なら注文者の供した材料による不適合の整理がある(民法636条)。
- 再利用モデルと他の顧客への展開は、可否を明記する。黙っていると、受託者の再利用が許されるのか、禁止なのか、読み手によって分かれる。
- 納入の形態ごとに、利用範囲と禁止事項、受入テスト、納入後の運用と終了時の返還・消去を決める。
契約前に手元に置くもの
- 提供データの明細(期間、項目、形式、件数の目安、取得の経緯)
- データに個人情報(氏名、連絡先、行動履歴など)が含まれるか、含まれる場合の利用目的の通知・公表の内容
- 開発の対象(何を予測するのか、何を自動化するのか)と、完成の判断基準
- 納入の形態(Webサービスとして提供するのか、モデルやコードを渡すのか)
- 納入後の運用の担当(誰が保守し、誰が再学習し、費用を誰が負うのか)
用語を分ける:データ、データセット、プログラム、パラメータ、モデル、再利用モデル
AI開発の契約で最初に決めるのは、用語です。「データ」「モデル」といった言葉を、同じ意味で使っているつもりでいても、委託者と受託者で指すものが違うことがあります。権利や利用範囲の話をする前に、次の六つを別のものとして定義します。
AI開発の契約で分けておく用語
| 用語 | 中身 | 契約で決めること |
|---|---|---|
| 提供データ | 委託者が受託者に渡す元のデータ | 明細(期間・項目・形式)、渡す権限の保証、利用目的、返還・消去 |
| 学習用データセット | 提供データを、学習のために整形・加工したもの | 加工の作業を誰が行うか、加工の成果の帰属、保存と消去 |
| 学習用プログラム | データセットから学習済みのものを作るためのプログラム | 受託者の既存資産か、開発の成果か。引渡しの対象か |
| 学習済みパラメータ | 学習の結果として生成される数値の組(係数) | 帰属、秘密情報としての扱い、引渡しの対象か |
| 学習済みモデル | 特定の機能を実現するために、学習済みパラメータを組み込んだプログラム | 納入の形態、利用範囲、逆解析の禁止 |
| 再利用モデル | 本件の学習済みモデルを使って作った、別の学習済みモデル | 作ってよいか、誰が作るか、他の顧客に使ってよいか |
表のうち、特に二つの区別が重要です。第一に、提供データと学習用データセットの区別です。委託者の提供したデータそのものは委託者のもので、受託者が整形・加工して作ったデータセットは、加工の作業の成果になります。この区別がないと、「加工した部分の権利は誰にあるのか」「データセットを他の開発に使ってよいのか」が決まりません。第二に、学習済みモデルと再利用モデルの区別です。委託者の提供データで学習したモデルをもとに、別のモデルを作る場合、その別のモデルにも委託者のデータの影響が残る可能性があります。再利用モデルを作ってよいか、作ったものを誰が使うのかを、独立の論点として扱います。
用語を定義するときは、契約書の中で定義を一か所に集め、同じ言葉の定義を別の条で重ねて書かないようにします。同じ用語が複数の条で別々に定義されていると、納入の対象と秘密保持の対象が食い違います。
提供データの約束:明細、渡す権限の保証、個人情報を含むときの整理
明細を契約書の別表にする
提供データは、契約書の別表に期間、項目、形式、提供の方法と期限を書きます。「必要なデータを提供する」とだけ書くと、受託者が追加で何を要求できるのか、委託者がどこまで応じる義務があるのかが決まりません。提供が遅れれば開発が遅れ、必要な項目が欠けていれば精度が出ません。そのため、データの提供は委託者の協力義務として位置づけ、遅れた場合の工期の扱いを書いておきます。
渡す権限を保証させる
提供データには、委託者自身が作ったものだけでなく、取引先から預かったもの、購入したもの、外部のサービスから取得したものが混じっていることがあります。他人の著作物や、他人が管理する情報が含まれていると、受託者が開発のためにデータを複製し、加工し、学習に使うことが、第三者の権利を侵害する可能性があります。そこで、委託者が提供データを受託者に渡し、開発の目的で使わせることについて、知的財産権その他の権利に基づく正当な権限を有することを保証させます。保証の裏返しとして、提供が第三者の権利を侵害したことによる損害は委託者が負う、と書くのが一般的です。
著作権法には、情報解析のための利用など、著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用を、著作権者の許諾なく認める規定があります(30条の4)。ただし、著作権者の利益を不当に害することとなる場合は除かれます。この規定は著作権者との関係の定めで、委託者と受託者の間で「データを何に使ってよいか」をどう約束するかは別の問題です。条文の存在に頼らず、契約で使い道の範囲を明記します。
条文例第○条(提供データ):保証と品質の例
- 委託者は、別表に定める提供データを、別表に定める方法及び期限までに、受託者に提供する。
- 委託者は、提供データを受託者に提供し、本件開発のために受託者が使用、複製及び加工することについて、知的財産権その他の権利に基づく正当な権限を有することを保証する。
- 提供データが第三者の権利を侵害し、又は法令に違反することにより生じた損害は、委託者が負担する。ただし、受託者の故意又は重大な過失による場合は、この限りでない。
- 受託者は、提供データの正確性、完全性、有用性について確認する義務を負わない。ただし、誤りや不備を発見したときは、速やかに委託者に通知する。
- 提供データの誤りや提供の遅れによって、完成の遅れや不適合が生じたときは、受託者は、その限りで責任を負わない。
「○」の部分と別表は、実際の取引で埋める。品質を確認しない旨を書く場合は、発見したときの通知を添えておく。
個人情報を含むデータを渡すとき
提供データに個人情報が含まれる場合は、契約の約束に加えて、個人情報保護法上の整理が要ります。順に並べます。
- 利用目的との整合。個人情報取扱事業者は、利用目的をできる限り特定しなければならず(17条)、あらかじめ本人の同意を得ないで、特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて個人情報を取り扱ってはなりません(18条)。データを集めたときの利用目的に、「AIの開発のための提供」が含まれているかを確かめます。
- 委託の範囲。個人データの取扱いの全部または一部を、利用目的の達成に必要な範囲内で委託することに伴う提供は、第三者への提供にあたりません(27条5項1号)。この枠に入るのは、委託元の目的のための取扱いです。受託者が、自社のモデルの改善など、自己の目的で使う場合は、この枠から外れる可能性があるため、別途の整理が必要になります。
- 委託先の監督と安全管理。委託元は、委託を受けた者に対して必要かつ適切な監督を行わなければなりません(25条)。個人データの漏えい、滅失、毀損の防止のために、必要かつ適切な措置を講じる義務もあります(23条)。契約には、安全管理の措置、再委託の制限、事故のときの連絡の方法を書きます。
- 漏えい等の報告。個人の権利利益を害するおそれが大きいものとして規則で定める漏えい等が生じたときは、個人情報保護委員会への報告と、本人への通知が必要です(26条、施行規則7条・8条)。委託先で事故があったときに、委託元へ速やかに連絡が入る仕組みを、契約で決めておきます。
- 外国にある第三者への提供。受託者や、受託者の使うクラウドが外国にあると、外国にある第三者への提供の制限が関係します(28条)。保管場所と処理の場所を、契約の前に確認します。
個人情報を含まない形(個人を特定できない統計的なデータなど)に加工してから渡すという選択肢もあります。その場合も、元のデータから個人が識別できるか、他の情報との照合で識別できるかを確かめたうえで、「個人情報を含まない」と契約に書きます。会話や音声のデータを扱う場合の整理は録音・文字起こし・要約・通話AIの規約で扱っています。
データの品質と責任分担:遅延、不適合、準備作業の切り分け
AI開発で、委託者と受託者の間で最も争いになりやすいのは、「期待した精度が出ない」「完成が遅れた」と言われたときに、データの質と量の責任がどちらにあるかです。ここで役立つのが、契約の型の確認です。
仕事の完成を約束する請負では、請負人が完成した仕事の結果に対して報酬を受けます(民法632条)。目的物が契約の内容に適合しないとき、注文者は追完請求などができますが(民法559条、562条)、不適合が注文者の供した材料の性質または注文者の与えた指図によって生じたものであれば、原則として、追完の請求、報酬の減額の請求、損害賠償の請求、解除はできません(民法636条)。ただし、請負人が材料や指図が不適当であることを知りながら告げなかったときは、この限りではありません。提供データは、請負の整理では「注文者の供した材料」にあたる場合があると考えられます。そのため、受託者がデータの不備に気づいたときに速やかに通知する義務を契約に置くと、民法636条ただし書の「知りながら告げなかった」の問題を避けやすくなります。
事務の処理を約束する準委任では、受任者は委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって事務を処理する義務を負います(民法643条、644条、656条)。完成や成果は約束されず、約束するのは処理の方法と注意です。データの整形・加工のような準備作業は、準委任で切り出すと、作業の対価を成果から切り離せます。
契約の型による責任の違い(一般的な整理)
| 観点 | 請負型 | 準委任型 |
|---|---|---|
| 約束すること | 仕事の完成 | 事務の処理(善良な管理者の注意) |
| データの不備があったとき | 注文者の供した材料による不適合の整理(民法636条) | 処理の方法の注意を尽くしたかが中心 |
| 報酬の考え方 | 完成に対する報酬。未完成の解除では、可分な部分の利益に応じた報酬(民法634条) | 事務の処理に対する報酬。成果の有無と切り離せる |
| 期間の制限 | 不適合を知った時から1年以内の通知(民法637条) | 請負と同じ制限は、直接は適用されない |
| 向いている作業 | 機能が明確で、完成の基準を決められる開発 | データの整形、精度の検証、改善案の検討 |
AI開発では、「機能の実装」は請負型、「データの整形」「精度の検証・改善」は準委任型というように、作業を分けて契約の型を使い分けることがよくあります。作業ごとに、どの型で、何を約束するのかを、契約書の別表で整理しておくと、不備が見つかったときの責任の説明がしやすくなります。
書き方の例(一般的な例) データの不備と責任
不備の通知
理由責任を全く負わない書き方は、請負人が不適当と知りながら告げなかった場合(民法636条ただし書)との関係で、効力が争われ得る。通知の義務を置くほうが整理しやすい。
遅れた場合の工期
理由協議の仕組みを置くほうが、延長の幅を決めやすい。
精度の約束
理由AIの出力の質は、データと条件で変わる。精度そのものを完成の基準にすると、争いが長引きやすい。
再利用モデルと、受託者による他の顧客への展開
受託者の立場では、委託者のデータで作ったモデルをもとに、他の顧客向けのモデルを作れたほうが、事業として効率的です。委託者の立場では、自社のデータの影響が残ったモデルが他社に渡ることは避けたいと考えます。ここで、契約が黙っていると、読み手によって「受託者の再利用は自由」と「禁止」の両方の読み方が出ます。再利用モデルについては、次の三点を明記します。
- 作ってよいか。本件の学習済みモデルをもとに別のモデルを作る行為を、許すのか、禁止するのか、委託者の書面による承諾を要するのか。
- 誰が使ってよいか。作ったモデルを、委託者だけが使うのか、受託者が他の顧客にも使うのか。使う場合は、委託者のデータの影響を残さないための措置があるか。
- 秘密情報との関係。学習用データセット、学習済みモデル、再利用モデルを秘密情報として扱うか。扱う場合の期間と、終了時の消去。
契約が定める秘密情報の列挙と、再利用の可否の条は、整合させる必要があります。たとえば、秘密情報の列挙に再利用モデルを入れながら、別の条で受託者が再利用モデルを他の顧客に使えると読める書き方にすると、条文が自己矛盾します。禁止行為を並べる条では、見出しに掲げた行為の一部しか本文に書かれていないと、書かれていない行為は禁止されていないことになりかねません。見出しと本文が一致しているかも、見直しの対象です。
提供データのように、業として特定の者に提供する情報として、電磁的方法により相当量蓄積され、管理されている情報(営業秘密を除く)は、不正競争防止法上の「限定提供データ」にあたる場合があります(2条7項)。提供データが、これらの要件を満たす形で管理されているなら、契約による保護に加えて、同法の保護の対象になる可能性があります。ただし、保護されるかどうかは個々の管理の状況で決まるため、契約で使い道と秘密の扱いを書いておくことが基本です。
書き方の例(一般的な例) 再利用モデル
再利用の可否
理由黙っていると、許される・禁止されるの両方の読み方が出る。
禁止の見出しと本文
理由見出しと本文がずれると、本文に書かれた範囲だけが効力の根拠になる。
秘密情報の列挙
理由体裁の乱れは、どこまでが秘密情報かを分からなくする。
納入の形態と受入テスト:Webサービスで提供するのか、モデルやコードを渡すのか
AI開発の成果は、引き渡す形が一つではありません。納入の形態を契約で選び、形態に合わせて利用範囲と禁止事項を書きます。
納入の形態ごとの違い
| 納入の形態 | 委託者が得るもの | 契約で書くこと |
|---|---|---|
| Webサービスとして提供 | 受託者の管理する環境にアクセスして使う権利 | 利用範囲(人数、拠点)、可用性の目安、障害時の対応、データの置き場所、終了時のデータの取り出し |
| モデルやコードの引渡し | ファイルとしての学習済みモデルやソースコード | 利用許諾の範囲、改変の可否、リバースエンジニアリングの禁止、再配布の禁止、保守の担当 |
| APIでの提供 | 受託者のAPIを呼び出して結果を受け取る権利 | 呼び出しの上限、利用料金の算定、仕様変更の通知、外部のAIの利用の有無 |
どの形態でも、グループ会社での利用は先に決めておきます。委託者の親会社、子会社、関連会社が使う場合に、委託者が同等の義務を負わせ、行為について責任を負う、という書き方が一般的です。リバースエンジニアリングの禁止も共通の論点で、ソースコードを取り出す行為、逆コンパイルや逆アセンブルに加えて、モデルの内部構造や学習済みパラメータを取り出す行為を含めるかを決めます。
受入テストは、完成の判断の仕組みです。納入を受けてから一定の期間(確認期間)内に、委託者が内容を確認し、期間内に具体的な理由を示した異議がなければ、確認が完了したものとみなす、という定め方が一般的です。「みなし確認」を置くときは、委託者が納入物の利用を始めた場合も確認完了とみなすのか、確認の基準を何にするのかを、あわせて書きます。AIでは、確認の基準を機能の動作と受入テストの結果に置き、出力の精度や、出力が常に正しいことを基準にしないと明記するのが現実的です。出力は入力と条件で変わり、同じ入力でも毎回同じ結果にならないことがあるためです。
条文例第○条(納入物の確認):確認期間とみなし確認の例
- 受託者は、第○条に定める期間内に、本件納入物を委託者に納入する。
- 委託者は、納入を受けてから○営業日以内(以下「確認期間」という。)に、本件納入物の内容を、別表に定める受入テストにより確認する。
- 確認期間内に委託者から具体的な理由を示した異議がない場合、又は委託者が本件納入物を業務に利用し始めた場合は、そのいずれか早い時点で、確認が完了したものとみなす。
- 確認の基準は、別表に定める機能の動作及び受入テストの結果とし、出力の正確性や有用性は、確認の基準としない。
確認期間の長さは、納入物の規模で変わる。異議の具体性を求める文言は、委託者にも説明しやすい。
納入後の運用・再学習・終了:別契約にするのか、含めるのか
AIの納入後は、三つの作業が続きます。ひとつは保守、不具合の修正と環境の維持です。もうひとつは運用、日々の稼働の監視や問い合わせ対応です。三つめは再学習・追加データの取込み、精度の維持や向上のための作業です。これらを開発契約に含めるのか、別の保守契約や運用契約にするのかで、費用の考え方が変わります。開発の対価に含めたつもりの委託者と、別料金のつもりの受託者の認識がずれると、納入後に請求をめぐって争いになります。
確認の問いと理由納入後の運用について、先に決めておく問い
保守の期間は、いつから、いつまでか。
納入と同時に始まるのか、確認の完了から始まるのか。無償の保証期間があるのか。
再学習は、誰が、いつ、どの費用で行うのか。
追加データの取込みが開発の対価に含まれるのか、別の契約や別料金になるのか。
精度が下がったとき、受託者は改善する義務を負うのか。
精度の維持を約束するのか、委託者の依頼に応じて作業するのか。
外部のAIサービスの変更や停止が起きたら、誰が対応するのか。
費用の負担、通知、代替の手段。外部事業者の規約の引継ぎは別の論点になる。
契約が終わったあと、運用を継続して提供するのか。
開発契約が終了しても、サービスの提供が続く場合の契約の切り替え。
第三者から、納入物が知的財産権を侵害していると主張されたときの取扱いも、あらかじめ決めておきます。典型的には、委託者が受託者へ遅滞なく通知すること、受託者が防御に必要な援助をすること、受託者の賠償責任に上限を置くこと、が書かれます。上限の置き方は、故意または重大な過失の場合に適用するかどうかを含めて、他の損害賠償の条項と整合させます。外部のAIの停止や変更への備えは外部のAIモデル・APIに依存するサービスの規約で、納入後に利用者から寄せられる申出への対応はAIサービスのトラブル対応で扱っています。
契約の終了時には、提供データの返還・消去が最も重要な手続です。受託者は、委託者の指示に従って、提供データ(複製物、加工物を含む)を返還または消去し、消去を証明する文書を提出する、と定めるのが一般的です。ただし、納入後の保守・運用のために、データを保存する必要がある範囲があります。その範囲を契約に明記し、範囲外のデータが残らないようにします。契約が終了しても効力が続く条項(秘密保持、知的財産権、データの取扱い)は、存続条項として、条文番号を挙げて一覧にします。条番号の参照が、条文の追加や削除でずれていないかも、最後に確認します。
起きがちなこと:開発の場面で現れる食い違い
場面ごとの、起きがちなことと先に決めておくこと
提供データの一部に、取引先から預かった情報が混じっていた
起きがちなこと開発の途中で、そのデータを学習に使うことに取引先が反対した。委託者は渡す権限を保証していたが、実際には権限が不十分だった。
先に決めておくこと提供データの出所を確認し、権限の保証と、第三者の権利侵害による損害の負担を書く。
期待した精度が出ないと言われた
起きがちなこと委託者はデータの質ではなく、受託者の作り方に問題があると考える。受託者はデータの欠けが原因と考える。
先に決めておくこと精度は検証の目安とし、完成の基準を機能と受入テストにする。データの不備は、発見した時点で通知する。
受託者が、別の顧客向けに似たモデルを提供していると知った
起きがちなこと委託者は自社のデータの影響が残っていると考える。契約には再利用の可否が書かれていなかった。
先に決めておくこと再利用モデルを作ってよいか、他の顧客に使ってよいかを明記し、秘密情報の扱いと整合させる。
納入後の再学習の費用をめぐって、請求が食い違った
起きがちなこと委託者は開発費に含まれると考える。受託者は別料金と考える。
先に決めておくこと保守、運用、再学習を、開発の対価に含めるのか、別契約にするのかを明記する。
契約終了後、受託者の環境にデータが残っていた
起きがちなこと消去の確認が取れず、委託者が不安を持った。
先に決めておくこと消去の方法と、消去を証明する文書の提出を定める。保存が許される範囲も明記する。
陥りがちな点
- 提供データの出所と、渡す権限を確認していない
- 提供データと学習用データセット、学習済みモデルと再利用モデルを、同じ言葉で書いている
- 個人情報を含むデータを、利用目的や委託の範囲を確かめないまま渡している
- 禁止行為の見出しと本文の範囲が一致していない
- 精度を完成の基準にして、検収が終わらない
- 保守・運用・再学習が、開発の対価に含まれるのか別料金なのか、書かれていない
- 条番号の参照や、管轄裁判所の指定が曖昧なままになっている(専属的合意管轄は、裁判所を特定して書く)
AI開発の契約は、データの約束と納入後の約束という二つの端から読み直すと、抜けが見つかりやすくなります。データを渡す側は、権限と使い道の範囲、個人情報の整理、返還・消去を確かめます。預かる側は、データの不備への対応、再利用の範囲、納入形態と運用の線引きを確かめます。どちらの立場でも、見出しと本文、定義と使用、条番号の参照が揃っているかを最後に確認することが、後の食い違いを減らします。
よくあるご質問
委託者が提供するデータについて、受託者はどこまで責任を負いますか。
契約で決めます。一般的には、受託者は提供データの正確性や有用性を確認する義務を負わないとし、ただし誤りや不備を発見したときは速やかに通知する、という組み立てが使われます。請負の場合、不適合が注文者の供した材料の性質または指図によって生じたときは、原則として追完の請求などができません。ただし、請負人が材料や指図が不適当であることを知りながら告げなかったときは別です(民法636条)。
個人情報を含むデータを渡して、AIを開発してもらうことはできますか。
可能な場合がありますが、整理が要ります。利用目的の達成に必要な範囲内での委託に伴う提供は、第三者への提供にあたりません(個人情報保護法27条5項1号)。その場合も、委託先の監督(25条)、安全管理措置(23条)、漏えい時の報告(26条)が関係します。受託者が自己の目的で使う場合は、この枠から外れる可能性があります。外国のクラウドを使うときは、28条の確認も要ります。
再利用モデルとは何で、なぜ契約で決めるのですか。
本件の学習済みモデルを利用して生成された、新しい学習済みモデルのことです。委託者のデータの影響が残る可能性があるため、作ってよいか、他の顧客に使ってよいかを契約で決めます。黙っていると、受託者の再利用が許されるのか禁止なのか、読み手によって分かれます。
AIの精度を、完成の基準にしてはいけませんか。
禁止されているわけではありませんが、実務では注意が要ります。出力は入力と条件で変わり、同じ入力でも毎回同じ結果にならないことがあるため、精度を完成の基準にすると、検収が終わらなくなるおそれがあります。機能の動作と受入テストの結果を基準にし、精度は検証の目安とする書き方が現実的です。
納入後の再学習や運用は、開発の対価に含まれますか。
契約で決めます。含めるのか、別の保守・運用契約にするのかで、費用の考え方が変わります。保守の期間、再学習の担当と費用、精度が下がったときの対応、外部のAIの変更への対応を、あらかじめ書いておきます。
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